行事案内・報告

行事案内・報告

「化粧品の製品開発と産学連携によるオープンイノベーション」

 
特別企画セミナー
(2019年2月27日京都タワーホテルにて)
 
「化粧品の製品開発と産学連携によるオープンイノベーション」
 
株式会社マンダム
執行役員 基盤研究所 所長
(大阪大学大学院薬学研究科 招聘教授)
岡田 文裕(平成01年化学科卒)  

 このたび、2019年2月17日(日)、京都タワーホテルにて、第6回特別企画セミナーで講演させていただきました。きっかけは、私の立命館大学時代の同級生でもある生命科学部の花崎知則教授にお声がけいただいたというもので、このようなご縁に感謝しております。
 
 日本の化粧品業界ですが、最近はインバウンド消費で爆買いされ、海外からも注目を浴びております。その背景として、我々は、世界の人々の日本製化粧品の品質に対する信頼性の高さが背景にあるのではないかと捉えております。このような背景の中で、「化粧品」の研究開発は、界面化学、皮膚科学、毛髪科学を土台にした従来からの基本的な技術に加えて、最近日本で特に進化の著しいライフサイエンス研究分野における再生医療技術など、新しい科学領域からの技術応用の挑戦が続いています。
 当社マンダム(年配の方にはかつてのチャールズブロンソンのCMでご存知の方もいらっしゃることかと思います)におきましても、「人間系」をキーワードに、化粧品の製品化研究、安全性の追求だけでなく、アンチエージングに繋がる先端技術を用いた研究、全く新しい価値創出を目指したイノベーティブな研究に現在取り組んでいます。これらは主に、大阪大学大学院薬学研究科との産学連携によるオープンイノベーションによる取り組みです。
 我々マンダムと大阪大学との先端化粧品科学共同研究講座は、先端医療技術を応用した革新的化粧品の開発をゴールとしています。近年の幹細胞培養技術や組織再構成技術は、皮膚やその付属器官の再生、生体内の反応や制御のin vitroでの再現が可能で、香粧品研究分野でも応用が期待されます。我々は、皮膚に存在する幹細胞を単離同定し、培養系を確立することによって、生体外においてこれらの働きや活性を再現し、それをコントロールできる薬剤の探索方法を確立できると考えています。
 大学医学部、皮膚科医、美容外科医等と連携しながら、ヒトの皮膚組織および皮膚関連組織における蛋白質や遺伝子の発現、それら組織から単離した細胞の分化や機能変化、各組織のダイナミックな機能や恒常性維持の分子メカニズムの解明などを目指しています。これらの研究成果は、化粧品分野において早期に実用化できるものと考えており、新しい効能を有する次世代型の化粧品の創出を目指しています。現在進行中のテーマが多くまだ公表できないことも多いのですが、これまでの研究成果のトピックスを例として少しご紹介させていただきます。 

 我々の研究グループは、ヒト皮膚組織(倫理審査承認済み)から汗腺細胞を単離し、単離した汗腺細胞
(図1)ヒト汗腺の三次元構造
の中から汗腺の幹細胞を世界で初めて発見しました。さらに、その汗腺幹細胞を用いて生体外における汗腺様構造体の再生に世界で初めて成功しました。また、皮膚組織から取り出したヒト汗腺の三次元構造を可視化することにも成功しました(図1)。 これにより、発汗時における汗腺収縮機構の解明や、汗腺が発汗する機能を直接的に評価することが可能となります。化粧品分野の常識として、これまでは汗腺にフタをして汗を止めるという機能が中心であった制汗剤の技術ですが、現在開発中の技術を用いることで、汗腺に生理的に直接作用して「汗の量や質を改善する」といったような新たな機能を提案することが可能となると考えています(図2)。

 
(図2)期待される次世代制汗剤
 直近では、3Dライブイメージングという手法を用いることにより、汗腺の動きを観察できるようにもなりました。その研究成果は、化粧品産業において世界最大のクラスターであるフランスのコスメテックバレーが主催するコンテスト「Cosmetic Victories 2019」において、最優秀賞を受賞する栄誉を受けました。化粧品研究の本場フランスにて「最も期待できる基礎研究」として日本の我々の研究が評価を受けたことには大きな意義を感じています。(ちなみに、我々化粧品業界の技術者たちで構成される業界最大の国際化粧品技術者会、略称IFSCCという団体があるのですが、フランスは、この2019年度IFSCC研究ランキングで1位です(日本は2位))。現在我々は、この研究成果を応用した次世代の制汗剤を世の中に少しでも早く送り出せるよう、次のステップとしての実用化研究を進めているところです。
 
 今回一例としてご紹介した汗腺研究以外にも、我々は、肌再生に関与すると考えられる免疫制御の研究や、毛髪再生に関与する幹細胞研究等、現在、種々の研究テーマを精力的に進めており、今後も引き続き成果を出せるよう邁進しております。我々の研究とコラボレーション出来るようなテーマや活用できそうな研究成果がおありでしたら、御一報いただければ幸いです。