同窓生紹介 和田 照平さん

2012年05月19日(土)


お勤めの病院について教えてください。

私の務めている近畿大学医学部附属病院は、昭和50年に開院されました。高度の先進医療を担う特定機能病院としても指定されています。大学病院として診療だけでなく、医学生やコメディカルスタッフの教育、各専門分野での研究も盛んに行われています。
その中で私は救命救急センターとメンタルヘルス科に所属しています。救命救急センターは急性疾患や外傷・中毒など、他の機関では対応ができない生命の危機にある最重症の患者が集まる、救急医療の中で最後の砦とも言える機関です。私は主に救命救急センターに搬送されてくる自殺未遂者のケアに取り組んでいます。
(※「自殺企図」とは実際に自殺を行動に起こすことを指し、「自殺未遂」は自殺企図の結果生存している場合、不幸にも亡くなってしまった場合は「自殺既遂」と言います。)

具体的には、どういったことをされているのでしょうか。

簡単にいうと自殺未遂者と面接を行って、再企図・・・再度の自殺を防ぐためのサポートを行います。
実際には自殺未遂者が搬送されて来ると、まず救急医や看護師によって身体的治療が行われます。その段階から救急医らと一緒になって自殺が起きた時の状況や家族からの情報を収集するために介入していきます。その後、患者さんが話が出来る状態となれば、精神科医とともに患者さんや家族と面接を行います。 面接では「死にたい気持ち」があったかどうかや、それに至るまでの経緯・事情などを詳しく確認して退院後の継続したケアにつなげていきます。目的は再度の自殺の危険を減らして、生きるための支援につないでいくためです。これが私の仕事のメインです。
退院後の再企図予防のために、院内だけでも救急医や精神科医・看護師・リハビリ担当スタッフ・事務方など、多くの職種の方と連携を取ります。患者さんに通院先や関係機関がある場合には各機関との連携は欠かせません。患者さん本人やご家族の方との面談をしながら、退院し外来フォローで可能な状態か、転院が必要かなど退院後のサポート体制を決めていきます。

患者さんとは、どのようなお話をするのでしょうか。
とてもデリケートな内容で踏み込みにくそうに思えるのですが・・・

患者さんに対して、「死のうと思ってましたか?」とストレートに質問をします。ついオブラートに包みたくなることですけど、例えばおなかが痛い人に対して「いつからおなかが痛いですか、何か食べましたか」といったふうに質問するのと同じで、「自殺であるか否か」という出発点をきちんと確認することは当たり前だと思います。
日本臨床救急医学会から「自殺未遂患者への対応」という手引きが発行されていて、そこでも救急搬送された自殺未遂者に対しての標準的な対応として、死にたい気持ちの確認や自殺に関する話題を取り上げることが挙げられています。
自殺する人に対して、「自分でするのだから好きなようにさせれば」といった意見もあります。でも実際には、様々な要因によってどう解決していいかわからず、心理的に追いつめられて行われるのが「自殺」という行為です。選んだことというよりは「それしかなかった」と選ばされた手段として起こるのが自殺と言われています。必ずしも自分だけで選んだことだとは言えないと思います。
だからこそ、きちんと話を聴いてサポートできるよう心掛けています。

なるほど。自殺行為をされた方と対面されるお仕事ということで、苦労されることもあるんじゃないでしょうか。

「自殺」という命の危機に携わっている仕事なので、生死が目の前にあることがしんどいときもあります。でもそんな厳しい現場だからこそ専門職としての能力が高く求められ、それに努力できる機会をもらえていると考えると貴重な経験をさせてもらっているとも思います。
一人だけでは続けていけなかったと思います。院内外でたくさんの人に助けてもらっています。臨床や研究の中でいろいろな先生方に出会えることはすごくありがたく感じています。自殺する人自体の数は簡単には減りません。なのでケアをする人たちの人数が減らないように、それぞれがしんどくならないようにフォローし合っています。また、ケアする側の人材の育成にもみんなで取り組んでいます。私自身も、お会いした先生方にはとても支えてもらっていますし、話をすることでとても勉強させてもらっています。

よく報道で自殺者数が減っていないという記事を目にしますが、やはり自殺を防ぐということは大変な事なんですね。

自殺の予防というのは簡単なことではないかもしれません。でも専門家にしかできないことではないと思っています。すべての人の活動が自殺予防につながってくるものです。
富山市で理美容店の方々が自殺予防につながることを目的に、客に積極的に声を掛けて話を聴くという活動があります。これはなかなか相談につながりにくいという中高年の男性の方々に焦点を当てた活動です。
他にも自殺の名所と言われる場所で一人で歩いている人などに声を掛けることで自殺予防につなげようという活動もあります。
こんな二つの例のように、少しの声掛けから相談につながることもあります。お世話になっている先生が「自殺予防はみんなの仕事」と常々話しておられます。この想いが少しずつでも広がっていけばいいなと思います。

なるほど、日常生活の何げない一言が自殺を防げるかもしれないんですね。
実際にどれくらいの自殺未遂者の方が運ばれてくるのですか?

当院の救命救急センターには年間約800人が搬送されてきて、その中で約100人が自殺企図者です。日本全国の他の救命救急センターでも全搬送者の10~20%が自殺企図者だと言われています。見過ごせない数字だと思います。救急医療の現場では自殺は大きな問題です。
それでも、全国の救急医療施設では当院のように精神科のスタッフが整っていることはまだまだ少ないと思います。自殺予防に関わる人々を増やしていくことがこれからの課題だと思っています。
昨年(H23年)の11月に他の先生方と共同で日本総合病院精神医学会で「当院救命救急センターでの自殺未遂者への取り組み」について発表しベストポスター賞を頂きました。これからはこんな形で評価されるのではなくて、現在のような取組みが標準的になっていけばいいなと思います。

話は変わりますが、この仕事についたきっかけを教えて頂けますか。

ここに勤める前は他の診療所に勤めていました。大学時代の恩師に「20代のうちにいろんなことをしてみて、自分の興味のあることが見つかればいいよ」という言葉をもらい、いろんな経験をしてみたいなと考えていたんです。 ちょうどその時、大学時代にお世話になった別の先生から「救命センターでの自殺予防の仕事があるよ。」といった連絡があったんです。実際に、聞いた内容だけではあまり詳しくがわからなかったので、担当の方に話を聞いてみようと連絡をとったところ、 「こういった仕事に興味を持つ人は少ないから」と先生からの強い薦めもあり、職場を変えることになりました。大学時代からの縁があって今の仕事につながったんだなと感じています。

先生方や大学時代のご友人とは連絡をとることは多いんでしょうか。

他の大学では卒業後に大学の先生方と連絡をとることはあまりないと聞くので、多いんじゃないかと思います。今でも定期的に先生や友だちと飲みに行くことがあります。大学時代も、ゼミなどで先生と少人数で議論できる機会があったり、とにかく先生方と直接いろんな話ができる機会が多かったことが、とても印象的でした。
友人は仲の良い人とはもちろん連絡をとったりもしますし、前にこちらの取材をうけていた野嶋さんをはじめ、有川(旧姓:桑原)さんや田渕さん、池さんとは年に二回ソーシャルワークについて研究会を行なっています。今は、それぞれの情報を持ち寄って出版をしようかという話も出ているところです。
当時の先生方や友だち、先輩後輩など、同じ領域で働く仲間がたくさんいることはとても役だっていると思っています。ムダな話が出来る仲間がいることはありがたいことです。ひとりでは仕事が続いていなかったと思います。

仲間がいるのは心強いですね!
最後に、今後の夢や目標がありましたら教えてください。

地道に臨床を続けられたらいいなと思います。データを見ることも大事かもしれませんが、実際に会う人はデータとはまったく違うこともあります。患者さんと自分の価値観が大きく違ったりするので、実際に会話をすることがとても興味深く、人と話すことが勉強になっています。
あとは、ソーシャルワーカーの待遇はまだまだ恵まれていないところもあるので、これからも改善につながるように頑張っていきたいですね。ソーシャルワーカー全体の価値が上がるように努力したいと思います。
でも、私自身はゆっくりすることが好きなので、頑張らずに息抜きしながらいきたいなと思います。